不妊治療diary

36歳・結婚4年目のオマルが綴る、男性不妊と、働きながらの子づくりにまつわるよしなしごと

不妊治療を振り返る その1 クリニックのこと

※培養士について追記しました。(2015年11月11日)

8w2d。8週目に突入した途端にわかに体調が優れず、ほぼ寝たきりの土日を過ごした。とはいえ吐くには至らず、空えずきとげっぷと胃痛を抱えながらも、ベッドの上でゴロゴロとマンガを読む余裕はあった。きっとつわりは軽い方なんだな、この程度なら。

今回、クリニックを卒業したところで、ひととおりこれまでの不妊治療を振り返っておこうと思う。

2012年11月に、初めて一般不妊治療を行っている婦人科を受診。ちょうど3年前になる。銀座にある個人病院で、先生が優しくて穏やかでとても素敵な方だった。ここでタイミング療法を約半年。

この時、はじめから精液検査をしていれば、半年は治療期間が短縮できたかも、というのは後になって思うこと。当時は、4歳年下のオットに原因があるかもなんて、これっぽっちも思っていなかった。

約半年後にこのブログを始めて、それとほぼ同時に男性不妊が発覚。オットが意外とダメージを受けていないことに驚きつつも救われ、原因がわかれば解決はできると前向きに考えていた。自分が原因でなかったことにホッとする気持ちもあった。

選択肢が一気に顕微授精一択に絞られたことで、迷いはなかった。もともと、自然妊娠へのこだわりも特になかったし、生殖医療技術が進歩した時代に生まれ、望む治療が受けられるだけの資金があることもありがたいと思った。

病院選びを経て、2013年6月からの2年5ヶ月、京野アートクリニック高輪にお世話になった。

このクリニックを選んだのは、泌尿器科があり男性不妊治療に力を入れていること、予約制であることを重視した結果だった。

1つ目に関しては、オットには精索静脈瘤などのはっきりした原因は見つからず、結局男性不妊の治療は特に行わなかった。

2つ目については、わたし自身がフルタイムで働きながら通院するにはマストの要件だったけども、途中からえらくクリニックが混みだして、予約制とはいえ3時間拘束が当たり前になっていた。

わたしが恵まれていたのは、仕事が完全裁量労働制で勤務時間をかなり自由にコントロールできたこと。クリニックの予約はできる限り朝イチの8時半か9時にとり、午後からは普通に出社して仕事をしたり、移植が午後なら午後の数時間だけ会社を抜けて、夕方帰社することもできた。

それに、このクリニックでは誘発が自己注射だったことも通院回数による仕事への影響を抑えられた要因だった。まさか自分が自分の腹に注射できるようになるとは…治療前には考えられなかったスキルがついた・笑(大して人生の役には立たないけど)

治療のために仕事を辞めざるを得ない人も大勢いると思うと、それなりに忙しく働きながら治療を続けられたのは何てラッキーだったんだと改めて思う。

ほかに、京野アートの良かった点を挙げるなら、
1. 患者の意見を病院運営に取り入れる姿勢があること
2. スタッフ、特に看護師さんの対応が優れていると感じること
3. 待合ホールをはじめフロアが明るくゆったりしていて待ち時間のストレスが少ないこと
だろうか。

1.については、わたしの通院中に複数回、クリニックのサービスについてのアンケートが実施されていた。うろ覚えだが、そのうち何回かは、外部機関による監査のような位置づけのアンケートだったように記憶している。経営者が、組織を透明性高く運営しようという意識を持っていることが感じられて好感が持てた。

想像するに実際、患者数が増えたことによって一時期クレームやトラブルが増えた時期があったのかもしれない。それに向き合って改善しようという姿勢を持っていることに、病院の健全さを感じた。

そういえば最近になって、問診室の外にその日の担当医のネームプレートが掛けられるようになった。あんなのも、患者さんの意見を取り入れた結果かもしれない。

2.については1.にも関係するのだけど、基本的にスタッフ教育がとても行き届いていると感じることが多かった。業務手順、患者への配慮、してはいけないことや、言ってはいけないことなど、きちんとマニュアル化されてしかもそれが徹底されているように感じる。

特に、看護師さんのホスピタリティには通院中何度も癒された。採卵や移植の時には十分に気遣っていただいたし、相当忙しいだろうに笑顔を絶やさない方も多かった。いつだったか採卵待ちのオペ室でおしゃべり中にチラ聞きしたところ、皆さんけっこうな長時間労働だとか。わたしが言うのもなんだけど、身体を大事にしてほしいなぁと思う。

個人的にはクリニックへの通院が苦にならなかったのは、このスタッフさんたちによるところが大きいと思っている。不妊治療というのは高額の自費を投じて受ける医療サービスだ。ただでさえ治療が上手くいかない時は嫌な気持ちになるものだから、その上スタッフの対応に嫌な思いをさせられては割に合わない。

3.のフロアの過ごしやすさもそういう意味では通院のストレスを和らげるのに一役かっていた。

もしこの妊娠がうまくいって出産にこぎつけたら、もしくはあえなく途中でリタイアとなったら、残りの2つの胚盤胞をいつか迎えに行けるだろうか、と思ったりしている。その時にも、今のままの、もしくはより進化したサービスが受けられるクリニックであってほしいなと願う。


さて、クリニックについての振り返りだけども、肝心の治療経過についてはどうだったか。

初回の顕微授精では初期胚を凍結、その後は基本的に採卵のたびに、新鮮胚を移植し残りを胚盤胞で凍結、という形を取ってきた。

このやり方ですぐに妊娠する人ももちろんたくさんいるのだろうけど、少なくともわたしの場合、新鮮胚移植では一度も着床することはなかった。1年弱経った2014年の春に凍結胚盤胞移植で初めて着床反応があった後は、もう凍結胚盤胞だけに絞って移植していく戦略にすればよかったと、これも今振り返って思うこと。

ただ、何が正しかったのかは先生たちにも、もちろんわたしにもわからないし、後から思えばというのはいくらでも言えるもので、そうしなかった自分や、そういう方針を採らなかったクリニックを責める気持ちはない。

男性不妊だから顕微授精さえすれば簡単に妊娠する、と当初思っていたほど甘くはなかったということ。それはたぶん、わたしの卵子の質もあまり良くなかったということで、その可能性をもっと早くに直視して、卵の質を上げることを意識した治療を少しでも模索していれば、と思ったりもする。

京野アートでの治療は、基本的には患者に合わせて変えてくれる方針のようだし、実際わたしが経験した採卵はアンタゴニストからショートからマイルドまで、誘発方法も薬も毎回変えて、ベストなやり方を探ってくれてはいた。移植については自然周期よりホルモン補充周期を薦められたけど、それも患者さんによるらしい。ただ、一通り採卵も移植もやり尽くしてみると、あとは数を打つしかないというのが苦しいところだった。

もし今回の妊娠反応がなければ転院しようと考えていたのは、京野とはまた違う方向からのアプローチが必要なのかもしれないと思ったから。

わたしの基本的なスタンスは、専門家である医師の言うことを信じて、素人が下手な考えを持ち込まない、というもの。それは今も変わっていないし、どんな世界でも目の前のプロフェッショナルを一番信頼すべきと思っている。

とはいえ、不妊治療は病院によって方針もさまざまで、1つの病院で一通りやり尽くしたと感じたら、転院するのが良いのだと思う。わたしの場合も、もしかしたらもっと早くに転院するという選択肢もあったのだろうけど、仕事のことを考えると転院先を決めてその病院のシステムと通院に慣れるまでが重く感じられ、なかなか腰を上げられなかった。

主治医制をとっているかどうかも病院選びのポイントの1つだけど、ここは難しいところだと思う。京野アートクリニック高輪は、主治医制ではなかった。正直に言って、先生方のおっしゃることは少しずつ違うな、と感じることがあったし、前回の診察で決めたことを次の診察でまた聞かれる、ということは少なからずあった。これに不信感を感じる人はいるのだろうなと思う。

一方で、主治医制または先生一人の個人クリニックは、待ち時間か長かったり、予約が取りにくかったりという難点もあることが想像される。わたしが転院しようと考えていたクリニックは先生一人で、その点が不安だったものの、年中無休で待ち時間もさほど長くないと聞いて転院を決めたのだった。こういうことも考慮に入れながら自分に合う病院を探すのは至難の技だと思う。

最後に費用のこと。実は厳密に調べて比較したわけではないので、京野アートの費用が高かったのかどうかはっきりはわからない。わたしが行った治療は、

・子宮鏡検査1回
・スクリーニング検査3回(年1回)
・ERA検査1回
・子宮内膜日付診1回
・採卵7回
・顕微授精7回
・新鮮胚移植3回(初期胚3・胚盤胞1※二段階移植1)
・凍結胚移植6回(初期胚3・胚盤胞3)

これで、治療総額は517万超…Σ(゚д゚lll)

始めから顕微授精で、高額のERA検査なんぞもやったから、たぶん2年半足らずで使った金額としてはかなり高い方なんではないかと思う。が、オットもわたしも、この数年は治療に資金を投入するのだとハラを括っていたし、振り返ってその金額に慄くものの、無駄遣いしたとは思わない(ようにしている)。

またたとえ治療で結果が出なかったとしても、投じたお金がこれからの生殖医療の発展に少しでも役立てばいいと思う(ようにしている)。というか、そう思わないとやってられない。なので、クリニックでは採卵のたびに、使えなかった卵や受精卵の研究目的の利用には同意書を提出していた。

たまたま治療に対する夫婦の価値観がある程度一致して、しかもそれなりの資金があったから実現できたことで、ここまで治療を続けられたこと自体とても恵まれたことだったと思う。ちなみに治療費は全て、双方の独身時代の貯金ではなく、2人の収入を合算した家計から拠出した。

治療にいくらつぎ込むのか、と考えるのは、子どもの値段はいくらか、と考えることに似てとても苦しい。だけど、当たり前だけどわたしたちは、500万出して子どもを買ったわけではない。

金額や費やした年月に関係なく、自分たちはできることをただやっただけ、と思えればいいのかもしれない。

その2につづく。

※2015年11月11日追記
病院選びの参考にされる方が少なからずいるようなので、追記しておく。

顕微授精を行う際に、培養士の技術や培養環境が重要という話をよく聞く。実際に、生殖医療に関わる看護師の友人に聞いたところ、同じ施設内でもどの培養士が担当するかで妊娠成績は変わってくるという。

わたし自身は、通っていたクリニックの培養技術について何かを語れるほど専門知識もないし、他院と比べることもできない。

が、以前このブログに非公開でいただいたコメントの中には、このクリニックの後、KLC系列の某クリニックに転院されて妊娠した方が、京野アートに比べてホルモン値の管理の厳しさと培養技術の高さを感じる、と書いていらっしゃるものがあった。

事実ベースでわたしが書けるとすると、わたしが2年半通ってお会いしたこのクリニックの培養士さんは、平均年齢でいうとわりと若い印象だった。中には20代か30そこそこと思しき人も複数いたように思う。年齢と培養士としての技術は必ずしも比例はしないと思うけども、ご参考までに。